近年、業務の効率化・省人化、サービスの高度化等のため、AIの利活用が進んでいます。本記事では、企業におけるAIの導入率が85%に上り、AIの利活用に先進的に取り組んでいる中国の代表的な事例を紹介していきます。

はじめに:AIとは

AIとは、Artificial Intelligence(人工知能)の略語です。一意に定まった定義はないものの、「人が実現するさまざまな知覚や知性を人工的に再現するもの」という意味合いで広く理解されています。

AIはあらゆる分野で応用が進んでいます。自動車では、「AIが運転する」自動運転車の研究開発が進んでいます。金融市場では、大多数の高速トレードにおいて、AIが売買の判断を下しています。医療分野では、AIが蓄積された治療カルテを学習し、患者の治療方針を示すサービスが開発されています。このように、膨大なデータを高速で処理、学習できることがAIの強みとなっています

主要国におけるAIの導入状況

人間と異なる強みを持つAIですが、導入状況は地域によってばらつきがあります。下図は、主要国におけるAIの導入状況を示したものです。中国のAI導入率が最も高く、85%となっています。一方で、日本のAI導入率は各主要国のそれを下回る39%に留まっており、更なるAI活用の余地があるといえます。

中国におけるAIの活用事例

上記を踏まえ、AIの導入に積極的な中国に着目し、AIの活用事例を紹介していきます。本稿では、小売業の事例を2つ紹介します。

F5未来商店

F5未来商店とは、2014年に中国、仏山でオープンした24時間営業の無人ロボットコンビニです。中国において多くの無人コンビニが実証実験止まりとなった中、F5未来商店は設立以来、広州、深圳を主な市場に据え、堅調に拡大を続けています。

中国において多くの無人コンビニが実証実験止まりとなった中、F5未来商店は設立以来、広州、深圳を主な市場に据え、堅調に拡大を続けています。また「Machine Fresh Food」による新鮮で現場調理される商品も提供されており、メニューには車仔麵(香港風ラーメン)、ミートボール、コーヒー、ミルクティー等の広東で人気の商品が並んでいます。

サービスクオリティの向上

F5未来商店では、「AIテーブルクリーナー」を導入しています。イートインの顧客が食べ終わると、カメラが自動的にテーブル上にゴミがあるかを検知し、ゴミ回収及びテーブル清掃指令を発令します。これにより、新たに入店した顧客は、前の顧客の食べ残しを見ずに済みます。

顧客の嗜好分析

F5未来商店では、顧客の注文商品に基づき、店舗別販売状況の分析をAIを利用して行っています。こうした分析により、例えば、深圳の店舗では広州の店舗に比べて辛い料理が売れることが明らかになっています。AIの分析レベルは、8年の経験を有する店長のレベルに匹敵すると言われています。

物品の仕入れ量分析

F5未来商店では、過去の売上、天気、活動量等から、日々の食材等の需要量をAIを活用して分析します。これにより、物品の仕入れ量を調整し、無駄になってしまうのを回避しています。

セールスプロモーションロジックの作成

F5未来商店では、賞味期限が近づいた商品のプロモーションロジックをAIが作成しています。現場調理系の商品は賞味期限が24~48時間であることを踏まえ、期限6時間前に値下げ開始、時間が経つにつれ値下げ幅が拡大し、期限2時間前には商品が自動で取り下げとなるロジックを作成しています。

F5未来商店では、AIの活用により、「ユーザーエクスペリエンスの向上」、「物品ロスの低減」、「運営コストの削減」を実現しており、AIとロボットの合わせ技により、運営コストを従来のコンビニのわずか4分の1である1500元(約28,000円)に抑えています。

AI食堂

無人注文システム

AI食堂の最も基本的な機能のひとつが、無人での注文受付です。顧客は店内の端末や専用アプリを通じて、自分の食べたいメニューを簡単に選択できます。AIは顧客の過去の注文履歴や好みを学習し、個別に最適なメニューの提案を行うこともあります。注文から決済まで、すべてセルフサービスで行えるため、従業員とのやり取りが不要です。

自動調理ロボット

AI食堂の調理プロセスは、ロボットが担当することが一般的です。特にフライパンやグリルを使った調理工程は、専用の調理ロボットが行います。ロボットは事前にプログラムされたレシピを基に、正確な火加減や調味料の量を調整し、一定の品質で料理を提供します。また、ロボットが調理時間を最適化するため、料理の提供スピードが非常に速くなります。

AIによる食材管理と在庫管理

AI食堂では、AIを活用して食材の在庫管理を効率化しています。AIは、注文データをリアルタイムで分析し、どの食材がどのくらい必要かを自動的に計算します。また、食材の消費期限や使用量を監視し、適切なタイミングで食材を発注することで、廃棄を最小限に抑えることができます。

顔認証決済システム

顧客が支払いをする際には、キャッシュレス決済が基本ですが、さらに進んだ技術として、顔認証による決済システムが導入されています。顧客は事前に顔写真を登録しておくことで、店内のカメラが顔を認識し、自動的に支払いを行います。これにより、財布やスマートフォンを取り出すことなくスムーズに決済が完了します。

まとめ

中国は製造業の競争力をさらに上げるべく、工場のデジタル化やスマート化に取り組んでいます。その一端として中国の小売業のAI技術導入事例を本記事ではまとめましたが、AI技術の変化は凄まじく、刻一刻と進化を遂げています。このようなシステムは、日本の小売業界でも十分に応用可能であり、労働力不足への対応や効率的な運営を目指す企業にとって大きな利点となるでしょう。